ヤムイモの頭(竹ノ下研究室):子どもと子育ての進化論序説 No. 009
サルの一人前再考
「一人前って何だろう」 で述べたように、ヒトにおける「一人前」が何を指 すのかは一筋縄ではゆかない問題だ。そこで、「一人前」についてもう少し 掘り下げて考えてみたい。その第一歩として、今回はサルの「一人前」につ いてもう少し丁寧に考えてみたいと思う。
ただし「一人前」という用語はいろんな意味がありそうなので、もう少し ニュートラルな言葉である「成熟」に置き換えてみよう。サルにとって成熟 するとはどういうことなのだろうか?
「一人前」イコール「成熟」と考えると、 「一人前って何だろう?」 で述 べたことがうまくゆかなくなる。 「一人前って何だろう?」 では採食、移 動、防衛の3点で母親に依存しなくなれば1.0人前と考えた。要するに離乳し て、自分で群れについてゆけるようになり、外敵から逃げられれば一人前と いうことだ。
多くのサルでは、これは子ども期の割と早い時期に達成される。ニホンザル ではおおむね1歳半〜2歳ごろまでに達成できるだろう。しかし、ニホンザ ルの1,2歳なんてまだ全然コドモである。よって、サルでも1.0人前が成熟 とはいえなさそうだ。
そこで「成熟」を分析的に考えてみる。ひとくちに「成熟」というが、成熟 には以下の3つの要素があると考えられる。
- 身体的成熟
- 性成熟
- 社会的成熟
言わずもがなだが、子どもは大人より小さい。大人の体サイズに達している かどうかは、観察者がサルを オトナ とみなすかどうかの重要な指標だ。 また、サルの多くはヒト同様、ある程度大きくなると成長がとまる。成長が とまることを成熟と考えることもできる。だが、オランウータンのオスなど は生涯成長を続けるらしい。
生物学では、成体とは繁殖能力を有する個体を指すのが一般的だ。霊長類の 場合、オスならば射精能力があるか、メスならば受胎能力があるかである。 一般的に、サルの性成熟は身体的成長がとまるよりも早くおとずれる。逆に いえば性成熟後もサルは成長するのだ。だから性成熟したけれどまだ身体が 十分成熟しきっていない個体を サブアダルト といったりする。
最近、子育てをせずに遊んでばかりいる若いお母さんを指して「子どもが子 どもを産んだ」とか「身体だけ大人で中身は子ども」などと非難することが ある。サルの世界に「大人の責任」があるかどうかは定かではないが、「オ トナの振る舞い」はある。集団の中でオトナらしく振る舞い、また周囲の個 体からよくも悪くもオトナ扱いされるようにならないと、社会的に成熟した とはいえないだろう。
しかし、われわれサルの研究者が研究対象の個体を観察しながら「この個体 は子どもも産んでいるし身体もそこそこ大きいけれど、社会的にはまだコド モだ」と考え、分析の際にその個体をコドモとして扱うなんていうことはほ とんどない。多くの場合、身体が大きくて第二次性徴がはっきりしていれば、 社会性などにはお構いなしに「オトナ」と分類してしまう。
だが、そのような態度を続けていては、サルの子どもや子育てを現代日本の 子どもや子育て関連付けて論じることなど夢のまた夢だ。サルからヒトを知 りたいのであれば、生物学の慣行に安住していてはいけないようだ・・・と 自らを戒めよう。
